【要約・第5回】 「連載21~最終回分」

1月30日

 医師の養成と増員について、既存の医学部5年生以上に、全国統一試験を課して、合格者には仮免許を支給し、現行の臨床研修制度レベルの研修を在学中に履修させることを提案します。医師の増員については、両極の議論がありますが、医師が増えることで医療の質が低下するという論旨は、こと医療分野においては当てはまらないと考えています。

 医師過剰 → 競争原理が働く=買い手(患者)市場になる → 専門医・総合医の資格(能力)を持た ない医師を患者が選ばない → 医師が資格取得のために技術向上に励む → 医療業界全体の質の向上 → 患者・国にとって有益

 一連の改革は医師個々人にとっては、経済的な面及び生活面ではこれまでより格段に改善されます。しかしながら、こと医療に関する知識や技術の習得については、これまでより積極的な姿勢が求められることになります。それは全ての医師が、診療科別専門医もしくは総合医(家庭医)の資格と能力を持つことを求められることになるからです。
 それにより恩恵をうけるのは、患者であり、ひいて国そのものです。知識や技術を身につけることは、言葉でいうほど簡単なことでないことは医師ならぬ身でも容易に想像がつきます。しかし、このような努力の求められかたは「医は仁術」を標榜する医療関係者の本懐ではないでしょうか。

 「総合医療区域」の創設にかかる費用については、本論では既存の類似施設「神戸医療産業都市構想」を例に、「総合医療区域」の創設に係る費用を仮定する事とします。中核施設の整備等に費やした投資額は、98年から09年度予算までの累計で、神戸市が約249億円、国や独立行政法人などが約1,037億円の合計約1,286億円。単純計算で、年間で約100億円程度を設備投資等の費用として、自治体経費もしくは国からの交付金・補助金等で賄っていた計算になります。
 「総合医療区域」の創設にかかる費用の財源については、国土交通省所管の公共事業費「住宅都市整備環境事業費」などの活用です。
 「住宅都市整備環境事業費」は、総額1兆6,100億円(2008年度)でその内訳は、地方の自主性・裁量性を尊重した地域住宅交付金により地域における多様な需要に対応した公的賃貸住宅の整備等を行う「住宅対策」6,548億円。地方の自主性・裁量性を尊重したまちづくり交付金により都市環境を整備する「都市環境整備事業」に9,553億円を支出しています。 

 「総合医療区域」においては、従来の規制の枠にとらわれない医療サービスに関する情報公開や国際的な人材の活用、診療科別専門医及び総合医(家庭医)の研修制度の確立、医療従事者の職場及び居住環境の整備、医療施設と医療関連産業との共同事業などが可能となります。
 このような「総合医療区域」を地方に10カ所程度配置し、それぞれが高度な医療サービスを提供する医療施設や医師の研修制度をもち、充実した生活及び職場環境を提供することで、医師がそれぞれの適性やキャリアプランを勘案して「総合医療区域」に集まってくることが期待されます。
 そして、各「総合医療区域」が医師の派遣機能を持ち、提案主体となる道府県及び隣県のプライマリ・ケアを担うことで、医師の偏在による医療格差を是正することが可能になるのではないかと考えました。2004年に新臨床医研修制度が導入されたことによって弱体化してしまった大学病院医局の医師派遣機能を、「総合医療区域」が再構築するということです。
 また、「総合医療区域」では、民間の医療関連企業との共同事業を通して地域経済の活性化を図りつつ、さらには、病院は入院、診療所は外来といった病院と診療所の機能分化と連携についても、それを実現するための具体策を本論は提示するものです。

 本論はもともと「生命の洲・日本」構想 ―いのちのしま・にっぽん― という政策の実現フェイズを時系列順に3分割した場合の最初の段階を抜き出したものです。この政策は、安全保障と社会保障という国家政策における基盤ともいうべき二つの保障を医療政策という一つの理念で統合し、日本が「世界平和」の実現に向けて具体策を示すことを最終目的とするものです。
 すなわち、本論で記載した「総合医療区域」の創設により、国内の医療格差の是正をはじめ、医療立国としての基礎を確立する。
 これをフェイズ1として、次に、国内のみならず、海外からも多くの患者・医療関係者が、治療や医学研究のために日本を訪れるという状態を作り出すことを目的とした、各種のインフラ及び法整備とその実現をフェイズ2とする。
 さらに最終段階フェイズ3として、国内での法的認識とは裏腹に諸外国からみれば軍事抑止力そのものたる自衛隊を国内警察力に転嫁し、名実ともに対外戦力(軍事力)の不保持を実現する。

 これは、国内に様々な国の患者・医療関係者が存在し、かつ世界の最先端医療を国全体で実現し、その「医力」により国際貢献をなし得る日本が、「医療抑止力」をもって国家安全保障を成り立たせ、世界に先駆け実質的な軍事力を放棄することで、軍縮と「世界相互依存」の状態を作り出し、世界平和への具体的一歩を世界に向けて示すことに他なりません。

 50年先、100年先の日本が国家として目指す理想を提示し、その理想をただ夢想するのではなく、現実のものとするために、今後とも更なる研究を進め、政策の実現可能性を高めていきたいと考えています。
                                               了(文責:若狹)
  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2011年01月30日09:44

【要約・第4回】 「連載16~20回分」

1月26日

 この政策で期待される副次的な効果は二つあります。それは「地域経済の活性化」と「国際貢献」です。
 「総合医療区域」の創設は、地域の経済を活性化し「総合医療区域」を擁する地方に「人・物・金」を回すことで、将来的な経済的自立を確立するものです。それは、財政的・物理的に自らの地域の実情に合わせた医療を実現することが可能となることを意味し、地域住民の医療の質ひいては生活の質の向上に繋がると考えます。
 また、特区制度を活用し、留学生や海外の医師を積極的に受け入れ、人材育成を通して世界の医療人材供給ハブを目指して、医療レベルの向上と同時に人的協力として、「総合医療区域」から災害地・紛争地に医師団・病院船等を派遣するなどの国際医療協力を行います。

 この政策では、地方であっても医師を自律的に集める魅力を持ちます。
 医師の望む医療施設(勤務先)を調査した結果、医師の希望は大別すると2つの環境の充実に集約されます。すなわち労働環境と生活環境の充実です。生活環境については、前回までの連載で記載した通りです。 労働環境については、以下の2点が重要であり、これらの点をカバーすることが、医師を集約するためのインセンティブになると考えます。

 1.専門医・認定医の資格が取得(キャリアアップ)できる
 「総合医療区域」においては、分野別専門医と、総合医(家庭医)の養成カリキュラムを設置することで、この要望に応えます。

 2.勤務医の労働条件(時間・報酬)
 「総合医療区域」には専門診療分野を持つ専門医やその資格取得希望者及び、総合医(家庭医)資格の取得希望者を中心に多くの医師が集まることが想定されます。医師が集まれば、勤務時間のシェアリングが可能となり、一人当たりの勤務時間は短縮されます。また、「総合医療区域」は経済的にも地域の自立を促進しますので、勤務者の報酬という点でも問題をクリアできます。

 しかしながら、これまで試案として記載した政策により目的の効果を得るためには、「特区・地域再生」制度を適用し、規制緩和措置を利用したとしても、構造的な限界が存在します。

 診療科別専門医、いわゆる専門医については、その認定制度が問題です。
 医師の技量の向上を考えれば、エビデンス(経験)に基づいた一定の統一基準もしくは審査機関の設立が必要不可欠です。そしてそれは、各学会ではなく国が主導で行うべきものであると考えます。

 総合医(家庭医)の養成については、総合医(家庭医)を医療制度のなかで十全に活用するためには、全医師数の半数は総合医(家庭医)である必要があるとの指摘もあります。将来的にこのような人数の総合医(家庭医)を養成するためには、国が主導していくことが必要不可欠です。
 また、総合医(家庭医)の養成にあたっては、以下のように提案します。
 既存の医師に対する認定においては、離島・へき地(医師不足地域)に基準年以上の勤務実績がある場合に総合医(家庭医)として認定する。新規に総合医(家庭医)の専門医資格を取得する場合には、養成カリキュラムを受講(要・実務試験)し、「総合医療区域」が指定する離島・へき地(医師不足地域)の医療施設での一定期間の実務経験を課し、そのうえで総合医(家庭医)として認定する。
 このように設定することで、日本全国の医師不足地域に医師を派遣することが可能となります。2004年(新医師臨床研修制度導入)以前に、大学医局が持っていた人事権を「総合医療区域」を擁する自治体が替わって掌握することで、医局制度のデメリットを排除した上で、そのメリットたる、地域医療への現実的な医師派遣機能のみを発揮することができます。
                                                 (文責:若狹)

  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2011年01月26日23:05

【要約・第3回】 「連載11~15回分」

1月23日

 現状を踏まえて提言する政策が、5つの機能をもつ「総合医療区域(日本版メディカルシティー)」を、近隣の2~3府県が合同で提案主体となり「特区」制度を活用し、日本国内に10カ所程度創設することです。

 1.専門医療分野(例:移植医療、小児科、産科等)と、その専門医養成カリキュラム
 2.総合医(家庭医)養成カリキュラム
 3.研究だけではなく臨床までを一括して行える中核となる医療施設
 4.職住一体をコンセプトに社会・生活インフラが整備された定住都市
 5.介護福祉施設、創薬・医療機器開発研究等の医療周辺産業を集約

 なぜ5つの機能を必要とするのか、それは、医療資源の適切配置と財源確保のためです。1~4の機能は医療資源の適切配置のために、5はその財源確保のために設定するものです。

 「総合医療区域」のイメージを説明するために、北陸地方の福井県、石川県、富山県の3県が主体となり「北陸小児医療区域」を創設したと仮定します。
 この「北陸小児医療区域」は、地域医療の中核施設として、三県とその隣県のプライマリ・ケアをカバーします。「小児医療」の専門診療分野においては、臨床・研究ともに日本で最高の医療を提供することが特色です。そして小児科専門医の養成と総合医(家庭医)の養成を行い、魅力ある都市計画と医療周辺分野の集約により活性化された地域経済は、「北陸小児医療区域」を擁する北陸地方に医療だけではなく、経済の面においても恩恵をもたらすことが期待できます。

 「総合医療区域」の創設により、医療格差の是正つまり、「医師不足問題」の根絶という主効果と、地域経済の活性化(人・物・金を地方へ)、及び国際協力への貢献(人材育成を通して世界の医療人材供給ハブへ)という二つの副次的効果を創出することが期待されます。
 特定地域における様々な規制緩和を可能とし、必要であれば資金調達等も容易に行える「特区・地域再生」制度を利用することで、現行法の改正なく迅速に医療格差の是正を図ります。
                                                (文責:若狹)
  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2011年01月23日17:56

【要約・第2回】 「連載6~10回分」

1月19日

 2009年度補正予算で「地域医療再生基金」として3,100億円が計上されました。これは、救急医療の確保、地域の医師確保をはじめとした地域医療の課題を解決するために都道府県の取り組みを援助する基金ですが、実態は国が各都道府県にお金のみを渡して、具体策は各自治体に丸投げしました。
 また2009年8月30日の総選挙により、民主党が政権与党となりました。これにより、今しばらくの間は官僚機構の掌握に時間が必要とされ、医療政策をはじめ各種抜本的見直しの必要な政策の実行・実現は更なる先送りが予想されます。
 
 この点について、「構造改革特区制度(特区)」と「地域再生制度」という、国の制度を利用することで、現行法の改正なく、より迅速に対応策を実現する方策を提言します。
 特区制度は、自治体や民間事業者等の自発的な立案に基づいて、特定の地域に限定して規制の緩和・撤廃を特例として認め、その地域の構造改革を進める制度です。
 全国的な規制緩和・構造改革が困難であり、難航している現状に対して、特定地域において規制の緩和・撤廃を通して、改革の実績と経験を積むことで、将来的には全国的な構造改革へとつなげていく意図があります。そして構造改革の最終目的は「日本経済の活性化」です。
 地域再生制度は、財政支援や税制上のインセンティブを導入するなどして、地域の活性化を図る制度です。

 特区制度のなかで医療分野に関係するものとしては、神戸市が行っている「神戸医療産業都市構想」があります。
 この「神戸医療産業都市構想」は分野こそ医療特区に区分けされてはいますが、実質的には神戸市による経済活性振興策です。将来的には臨床までを視野に入れた計画ではありますが、インフラを整備して、地元の医療系ベンチャー企業の育成・起業支援や先端医療機器の開発研究等、医療周辺分野におけるビジネスを集約することで経済効果を得ることを、主な目的としています。

 医療は医師法・医療法により、通常の営利業界(会社)であれば当然許されることであっても、公共性を保持するという概念から多くの規制が存在します。それは、場合によっては患者だけではなく、日本の医療全体の損失となり得るものもあると考えます。
 例として、医療法では患者が医療機関の広告に過剰に影響を受ける恐れがあるとして、広告の許されている範囲が非常に限定されていることが挙げられます。
 また医師法では、外国人の医師が日本で診療行為を行うためには、日本の医師免許の取得が原則ですが、これは非常にハードルが高いのです。
 一例として挙げた医師法・医療法関連の問題について、最初は地域限定的にですが迅速に改善できる可能性があります。そして、経済的側面からも特区制度の活用は重要です。国の一般会計(2008年度)の歳出総額約83兆円のうち、医療費は8.5兆円と10%を占めています。この額の多少についての議論は本旨ではないので省きますが、医療において、財源ひいては経済的な問題は切っても切れないものであると思います。
 そのうえで、現状よりも医療サービスの向上を図るのであれば、一部の例外的な事情を除けば、財源となる資金の確保が必要となります。問題は、どのような方法でその資金をねん出するかです。特に地方自治体においては国からの交付金以外に、この資金を確保することは切実な問題です。
                                                (文責:若狹)
  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2011年01月19日16:58

【要約・第1回】 「連載1~5回分」

1月16日

 この論文は、地方で医師・病院が不足しているという、いわゆる「医師不足問題」を解決することを目的としています。
 
 では、「医師不足問題」はいつ始まったのでしょうか。2004年に導入された「新医師臨床研修制度」が引き金になって、地方の医師不足はマスコミ等に取り上げられ、多くの国民がこの問題を知ることになりました。

 「新医師臨床研修制度」とは、従来、強制力のなかった新人医師の臨床研修が義務化された制度です。 医師の研修制度は1946年以降、度々変更されましたが、「新医師臨床研修制度」の導入で、それまでの所属する大学病院以外に、一般の民間病院においても研修が可能となり、研修医は大学の医局(簡単に言うとゼミ)に属することなく自由に選択して研修を受けることができるようになりました。
 これにより、それまで研修医を労働力として常に一定数確保していた都市部の大学病院の医局は、地方・へき地の病院に派遣していた医師をその穴埋めに引き上げざるを得なくなるという事態に直面したのです。
 
 この「医師不足問題」を解決するために、「総合医療区域(日本版メディカルシティー)」を創設することを提言します。
 一つの診療科目、例えば、小児医療や産科医療、移植医療等に限定した専門医療分野と、その専門医を養成するカリキュラム。初期医療(プライマリ・ケア)を担う、総合医(家庭医)を養成するカリキュラム。臨床だけではなく研究・教育を一括して行える中核となる医療施設。定住都市としての魅力を備え、医療周辺分野(製薬・医療機器、介護・福祉)を集約できるインフラ。
 これらの機能を持った市街規模の医療施設群「総合医療区域(日本版メディカルシティー)」を日本各地に(地方に10か所程度)創設し、「医師不足問題」の根絶を含む3つの効果を創出します。

 1.医師不足問題の根絶(医師不足・偏在の解消と医療の質の向上)
 2.地域経済の活性化(人・物・金を地方へ)
 3.国際協力への貢献(人材育成を通して世界の医療人材供給ハブへ)

 現状、特に過酷な労働環境に置かれているのは、年代別では若手医師、地域別では東北地方・中国地方、診療科別では、産婦人科・小児科です。
 「医師不足問題」について、2007年4月に厚生労働省は、医師数全体は将来的に均衡する見込みであるという従来からの見方を変更しませんでしたが、現在、産科・小児科といった診療科における偏在があることは認めました。
                                                 (文責:若狹)

  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2011年01月16日09:37

【補講・あとがきにかえて】 

1月13日

 25回にわたり連載致しました「論文簡略版」ですが、その元になっているのは平成22年3月に筆者が修士(国際医療協力)の学位認定を受けた論文になります。そのため、使用しているデータや制度等は主に平成21年末までのものが主流を占めています。

 当然のことですが、当時とは変化している点がいくつかあります。
 特に執筆中には、個人的な構想・政策案や未来予測でしかなかったことが、現実に動き出していることを今回の連載中に頂いたコメントで知ることができたのは、大きな喜びでした。

 医療は遅行指数の最たるものですので、改善や改革などで成果を実感するには年単位が必要になることも珍しくありません。一例を挙げれば、医学部教育を抜本的に改革したとして、その成果が得られるには10年程度の時間を要します。それは新しい制度で育成された医師が一人前になるためにその時間が必要だからです。

 医療政策は常に未来を見据えなければなりません。それは場合によっては、現在の時点ではデメリットが多いと思えることでも、必要であれば取り組む決断をする勇気が求められることを意味しています。即物的な金銭の大小や対症療法的思考ではなく、根治療法を目指し、描く理想を実現するために、中長期的視野での政策立案に今後とも取り組んで参りたいと思います。
                                                (文責:若狹)

【お知らせ】
次回からは5回程度に分けて、連載した論文の要約を掲載致します。
  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2011年01月13日21:56

【連載・最終回】 国家100年の計

1月9日

 「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。(中略)われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」

 1946年11月3日に公布された日本国憲法前文の一節です。

 これは日本国民が国際平和という理想を実現するために全力を尽くすことを宣誓したものです。果たして現在、日本は、政府は、国民は、この「崇高な理想」を達成する意志が本当にあるのでしょうか。そして、その意志があったとしても、その理想を達成するための具体策を持っているのでしょうか。

 本論はもともと「生命の洲・日本」構想 ―いのちのしま・にっぽん― という政策の実現フェイズを時系列順に3分割した場合の最初の段階を抜き出したものです。この政策は、安全保障と社会保障という国家政策における基盤ともいうべき二つの保障を医療政策という一つの理念で統合し、日本が「世界平和」の実現に向けて具体策を示すことを最終目的とするものです。

 すなわち、本論で記載した「総合医療区域」の創設により、国内の医療格差の是正をはじめ、医療立国としての基礎を確立する。
 これをフェイズ1として、次に、国内のみならず、海外からも多くの患者・医療関係者が、治療や医学研究のために日本を訪れるという状態を作り出すことを目的とした、各種のインフラ及び法整備とその実現をフェイズ2とする。
 さらに最終段階フェイズ3として、国内での法的認識とは裏腹に諸外国からみれば軍事抑止力そのものたる自衛隊を国内警察力に転嫁し、名実ともに対外戦力(軍事力)の不保持を実現する。
 これは、国内に様々な国の患者・医療関係者が存在し、かつ世界の最先端医療を国全体で実現し、その「医力」により国際貢献をなし得る日本が、「医療抑止力」をもって国家安全保障を成り立たせ、世界に先駆け実質的な軍事力を放棄することで、軍縮と「世界相互依存」の状態を作り出し、世界平和への具体的一歩を世界に向けて示すことに他なりません。

 以上をもって日本は、憲法前文に謳われている「崇高な理想」を達成することを目指す、50年先、100年先を見据えた国家100年の計というべき政策です。

 このように本論は、この政策構想のフェイズ1に相当する部分です。今後は、政策の理念に賛同いただける方たちと共同して実務的な研究を行うべきであると考えるし、また実際に、そのような方々と協同して、内容の更なるブラッシュアップと、国会議員・官僚への政策提言や、本政策の一般への周知のためのリーフレット・書籍の出版、任意団体の設立、シンポジウム・勉強会等の準備も動き出しています。

 既存の構想とか戦略とかいわれるものは、ビジョンや理想だけを声高に語り、そこに実現に向けた具体策は全くと言って伴っていないのが現状です。
 この研究は、残された課題や検討事項が多く、現時点では実現可能性という点について疑問符が付くでしょう。しかし、長らくこの国を覆う閉塞感は、国民全体の将来に対する不安と、国が将来の国家像を示すことができていないことにその原因があると考えています。
 50年先、100年先の日本が国家として目指す理想を提示し、その理想をただ夢想するのではなく、現実のものとするために、今後とも更なる研究を進め、政策の実現可能性を高めていきたいと考えています。
                                                了(文責:若狹)
  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2011年01月09日19:47

【連載・第24回】 本論の特徴と限界について

1月5日

 本論では、医師の偏在による医療格差を是正するために、「特区・地域再生」制度を活用し、「総合医療区域」を創設することを提案しました。そして、それによって期待される効果と限界について述べました。

 「総合医療区域」においては、従来の規制の枠にとらわれない医療サービスに関する情報公開や国際的な人材の活用、診療科別専門医及び総合医(家庭医)の研修制度の確立、医療従事者の職場及び居住環境の整備、医療施設と医療関連産業との共同事業などが可能となります。

 このような「総合医療区域」を地方に10カ所程度配置し、それぞれが高度な医療サービスを提供する医療施設や医師の研修制度をもち、充実した生活及び職場環境を提供することで、医師がそれぞれの適性やキャリアプランを勘案して「総合医療区域」に集まってくることが期待されます。
 そして、各「総合医療区域」が医師の派遣機能を持ち、提案主体となる道府県及び隣県のプライマリ・ケアを担うことで、医師の偏在による医療格差を是正することが可能になるのではないかと考えました。
 2004年に新臨床医研修制度が導入されたことによって弱体化してしまった大学病院医局の医師派遣機能を、「総合医療区域」が再構築するということです。

 また、「総合医療区域」では、民間の医療関連企業との共同事業を通して地域経済の活性化を図りつつ、さらには、病院は入院、診療所は外来といった病院と診療所の機能分化と連携についても、それを実現するための具体策を本論は提示するものです。

 この「総合医療区域」を創設するという試案を実施するにあたり、具体的な創設場所、街区の面積、専門とする診療科目の選定、財源やその規模など、まだ不確定な部分があります。
 これらについては、まず医師が不足していて十分な医療を受けられていないと考えられる地方から一つの地域を選定し「総合医療区域」を創設します。その際、本研究では利用できませんでしたが、年齢調整をした受療率を経年的に求めるなどして、医療格差についてより客観的に把握することが必要です。
 また専門とする診療科目の選定については、その地域で、その診療科目を専門とする理由もしくはメリットが、日本の他の地域に比して存在するのか、同時にその地域に創設した場合の経済的採算性も含めて十分考慮しなければなりません。そして、そこでの経験をもとに他の候補地に適応していくことが順当であると考えます。

 本論では、医師の偏在による医療格差を是正するために「総合医療区域」の創設を取り上げました。本論では触れることはできませんでしたが、これまでも医師の偏在を解消するための試みは各都道府県や二次医療圏で行われており、これらの効果と問題点を整理することは医師偏在の解消策を検討する上で重要であると考えます。
 その他、遠隔医療の可能性、診療報酬のあり方、医師とコメディカルの役割の見直しなども医療格差を是正する上で検討すべき点であると思われます。これらは主として供給者側の課題ですが、救急医療を中心とした患者の適切な受診のあり方は、医療格差に是正のための需要者側の重要な課題です。

 今後はこれらの点もふまえつつ、「総合医療区域」の実現可能性を検討する必要があると考えています。
                                                (文責:若狹)

  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2011年01月05日14:58

【連載・第23回】 本政策の実行可能性に関する検討(2)

1月2日

 自治体財政について
 「総合医療区域」の運営主体となるのは自治体(都道府県)です。自治体運営の基本財源の歳入と構成比は以下の通りです。(2005年度)
 
 自主財源としては地方税35.2%、その他(使用料、諸収入)17%、依存財源としては地方譲与税1.8%、地方特例交付金1.8%、地方交付税18.9%、国庫支出金13.5%、地方債11.7%その他0.1%であり、依存財源とは国の財源保証、いわゆる国からの仕送りです。
 
 このうち国庫支出金は、特定の行政目的を達成するために自治体からの申請を基に、当該経費に充てることを条件に国から交付される予算であり、これを「総合医療区域」の創設に係る費用の財源とすることで、逼迫している地方自治体の財政状況においても「総合医療区域」を創設することが可能となります。具体的には、前回の「地方再生」制度交付金及び国土交通省所管の公共事業費がそれに該当します。

 財政面における実現可能性について
 年間に約100億円の予算を用意できれば、財政面では「総合医療区域」の実現は不可能ではないと思われます。そして、その金額は地方自治体に財政負担を強いることなく、現在支出しているベースで紹介した交付金・補助金を付け替えるだけで特別の処理を必要としません。仮定の必要予算であるので、金額の精度に問題はありますが現時点で詳細な金額を弾き出すことは非常に困難です。今後はこの点につき、少しでも精度を高めることが重要であると認識しています。

 ロジックモデルにおける検討
 ロジックモデルとは、政策がその目的を達成するに至るまでの論理的な因果関係を明示し、政策に関係する計画立案者、実施者、受益者等で意見を交換し、政策の効果を高め、改善するためのツールです。
 
 ロジックモデルに使用している用語について、「資源」とは、人的、財政的、情報・組織的な資源、及び地域の資源で、政策の実現に向けて投入するものです。「活動」とは、資源を利用して行う政策であり、ここでいう活動とはプロセス、ツール、イベント、技術、及び行動を含み、政策実施の意図的な部分であり、これにより成果を生み出すことになります。「結果」とは、政策における活動の直接の産物で、その政策で実現する現状及び、提供するサービスの内容等が含まれます。「成果」とは、ステークホルダーの行動、知識、技能、立場、及び機能レベルにおける特定の変化です。短期成果は1~5年以内、中長期成果は5~10年を想定しています。

 政策を実施してどのような成果を期待するのかを明示し、達成状況を測定する方法を探すことは、すべての関係者にとって今後の針路が明確になります。明確な指針があれば、関係者は当然自分の役割に自信を持って活発な行動ができ、針路からそれる可能性も低くなります。ロジックモデルは、特に視覚的な説明に基づいて分析が可能であるので、様々な価値観を持ち、専門の異なる多様な関係者とのコミュニケーションに役立つツールです。これを用いて、政策の理論的構造を示しました (図参照)。
 
 

 本論の目的は、ロジックモデルに記載した短期及び中長期成果の状態を作り出すことです。このロジックモデルを活用し今後とも様々な関係者と検討を行い、政策の実現可能性を高めていくことが重要であると考えています。
                                                 (文責:若狹)
  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2011年01月02日10:00

【連載・第22回】 本政策の実行可能性に関する検討(1)

12月29日

 本論における政策の実現可能性について、2つの視点から検討します。一つは「総合医療区域」の創設に係る費用とその財源及び、運営主体となる自治体財政について、財政面からの検討です。二つ目はロジックモデルを用い論理的に検討を行います。

 「総合医療区域」の創設にかかる費用
 「総合医療区域」の創設にかかる費用について、正確に金額を想定することは非常に困難です。それは、各特区において必要な設備や、土地の取得やそれに伴う経費が大きく違うからである。そこで、本論では既存の類似施設「神戸医療産業都市構想」を例に、「総合医療区域」の創設に係る費用を仮定する事とします。

 「神戸医療産業都市構想」の費用について、中核施設の整備等に費やした投資額は、98年から09年度予算までの累計で、神戸市が約249億円、国や独立行政法人などが約1,037億円の合計約1,286億円。単純計算で、年間で約100億円程度を設備投資等の費用として、自治体経費もしくは国からの交付金・補助金等で賄っていた計算になります。「総合医療区域」の創設に係る費用は同様であると仮定します。

 「総合医療区域」の創設にかかる費用の財源
 将来的には、「総合医療区域」の経済的自立を目標としますが、初期投資として中核となる医療施設の建設や、定住都市としてのインフラ整備に莫大な費用が掛かると予測されます。この費用を、「総合医療区域」の設置主体となる自治体のみで賄うことは不可能です。そこで、「総合医療区域」の整備を公共事業として国から補助金を受け、財源とすることが現実的です。
 
 具体的には、連載・第7回で記述した「地域再生」制度の交付金や、国土交通省所管の公共事業費の内、地方の住宅・都市整備に係る公共事業費である、「住宅都市整備環境事業費」と、同省国土計画局が統括する「広域的地域活性化基盤整備計画及び地域自立・活性化交付金」の活用です。
 
 「住宅都市整備環境事業費」は、総額1兆6,100億円(2008年度)でその内訳は、地方の自主性・裁量性を尊重した地域住宅交付金により地域における多様な需要に対応した公的賃貸住宅の整備等を行う「住宅対策」6,548億円。地方の自主性・裁量性を尊重したまちづくり交付金により都市環境を整備する「都市環境整備事業」に9,553億円を支出しています。 

 「広域的地域活性化基盤整備計画及び地域自立・活性化交付金の交付」(2007年10月19日 国土計画局調整課)は、地域の自立・活性化に向けて、地域の発意により都道府県が作成する広域的地域活性化基盤整備計画に基づき、広域的な経済活動等を支える道路、港湾など国土交通省の所管する社会資本整備全般にわたる各種基盤整備事業(基幹事業)と地域の自由な発意による地域づくりへの支援(提案事業)等を一体的に支援する目的で交付されています。金額は20府県34地域の合計で49億9,460万円です。
                                                (文責:若狹)
  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2010年12月29日10:19

【連載・第21回】 医師の養成制度とその増員

12月26日

 次に、医師の養成と増員について、まず著名な脳外科医の福島氏が主張するように医学部における医師養成制度の変革として、既存の医学部5年生以上に、全国統一試験を課して、合格者には仮免許を支給し、現行の臨床研修制度レベルの研修を在学中に履修させることを提案します。

 これにより、各医療機関は医師国家試験後の前期研修医を多少なりとも戦力として計算できるようになり、医療機関の負担を軽減し、研修医にとっても卒後より高度な研修を実現し、技術の早期取得を実現します。患者サイドとしても医療提供体制の向上により恩恵に預かることができます。

 医師の増員については、両極の議論がありますが、本論では、人口10万対医師数において日本の都道府県で最多の地域であっても、OECD平均に満たないという事実から (下記、図参照) 、増員が必要であるとの立場に立ち、医学部定員の増員や社会人を対象としたメディカルスクールの創設を国に要望します。



 医師が増えることで医療の質が低下するという論旨は、こと医療分野においては当てはまらないと考えています。

 タクシー業界がそうであるように、容易に取得できる2種運転免許の取得のみで営業可能なタクシーの供給過剰状態は、まさに「悪貨が良貨を駆逐する」という状態を産んでいますが、医師免許は様々な意味で取得難度が高いので、そもそも乱立のような状態が起こることは考えにくい。また、万が一起こったとしてもそれは以下のようにプラスの方向に働くと予想します。

 医師過剰 → 競争原理が働く=買い手(患者)市場になる → 専門医・総合医の資格(能力)を持たない医師を患者が選ばない → 医師が資格取得のために技術向上に励む → 医療業界全体の質の向上 → 患者・国にとって有益

 取得難度の高い免許制度+専門医・総合医(家庭医)の新しい認定制度の創設を前提とすれば、医師の技術レベルは最低のラインが常に確保されることになります。もし、それを下回る者がいる場合(診療科別専門医、総合医ともに取得ができないレベルの医師)は、競争原理により患者が医師を選定し、診療行為が事実上不可能となります。また、医師の増員により保育・託児、介護施設等のこれまで常勤が難しかった場所に、医師の勤務が可能になれば、それは国民生活の質の向上にもつながります。
 
 一連の改革は医師個々人にとっては、経済的な面及び生活面ではこれまでより格段に改善されます。しかしながら、こと医療に関する知識や技術の習得については、これまでより積極的な姿勢が求められることになります。それは全ての医師が、診療科別専門医もしくは総合医(家庭医)の資格と能力を持つことを求められることになるからです。それにより恩恵をうけるのは、患者であり、ひいて国そのものです。
 
 知識や技術を身につけることは、言葉でいうほど簡単なことでないことは医師ならぬ身でも容易に想像がつきます。しかし、このような努力の求められかたは「医は仁術」を標榜する医療関係者の本懐ではないでしょうか。

 また本論では医師の技術レベルの向上は構想の基幹であり、国にとっても医師のみならず医療の質の向上は、社会保障上、絶対的な目標となるものです。以上の点から医師の増員は、様々な点から、国家・国民の社会生活に資するものであると考えます。
                                                 (文責:若狹)
  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2010年12月26日17:25

【連載・第20回】 総合医(家庭医)の養成

12月22日

 また、総合医(家庭医)の養成にあたっては、以下のように提案します。

 既存の医師に対する認定においては、離島・へき地(医師不足地域)に基準年以上の勤務実績がある場合に総合医(家庭医)として認定する。
 新規に総合医(家庭医)の専門医資格を取得する場合には、養成カリキュラムを受講(要・実務試験)し、「総合医療区域」が指定する離島・へき地(医師不足地域)の医療施設での一定期間の実務経験を課し、そのうえで総合医(家庭医)として認定する。
 
 このように設定することで、日本全国の医師不足地域に医師を派遣することが可能となります。2004年(新医師臨床研修制度導入)以前に、大学医局が持っていた人事権を「総合医療区域」を擁する自治体が替わって掌握することで、医局制度のデメリットを排除した上で、そのメリットたる、地域医療への現実的な医師派遣機能のみを発揮することができます。



 GP制度が導入されている国がそうであるように、日本においても総合医(家庭医)制度の法的確立と、それに伴い、診療報酬改定により、総合医(家庭医)が医師の格として、診療科別専門医の上に位置することを収入により示すことが重要です。これは、診療科別専門医志向の医師を、より数が必要とされる総合医(家庭医)志向へと変更させる目的のほか、医師として必要とされる技量も総合医(家庭医)の方がより要求される点からも妥当であると考えます。

 上記に並行して、各医師の技術向上意欲の促進の意味と、病院・診療所経営の側面からも、診療報酬を改定し、専門医・総合医の実質的な技術料(ドクターフィー)を認めることも重要です。

 病院と診療所の機能分化の促進という点から、すでにいくつかの病院で導入されている紹介状なしに病院(専門医)を受診した場合の初診料徴収について、将来的には診療所(総合医)の紹介状なしには、原則的に(急患・専門外来等を除き)病院(専門医)を受診することを制限、もしくは患者の自己負担を大幅に増加させることで抑制する方向性で検討することが望まれます。

 この点、フリーアクセスの問題が絡むので議論があるのは承知です。しかしながら、明らかな軽症でありながら、初診から三次医療機関(大病院)に行く自由などといった、行き過ぎたフリーアクセスを、常識の範囲内に止めることを目的とした程度の抑制は、むしろこれからの日本においては必要不可欠であると考えます。
                                                 (文責:若狹)
  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2010年12月22日23:27

【連載・第19回】 診療科別専門医と総合医(家庭医)について

12月22日

 これまで試案として記載した政策により目的の効果を得るためには、「特区・地域再生」制度を適用し、規制緩和措置を利用したとしても、構造的な限界が存在します。そのようなものに関しては、国に対して以下対策を望むものとして記載します。

 診療科別専門医と総合医(家庭医)について
 
 診療科別専門医、いわゆる専門医については、その認定制度が問題です。2008年6月に日本学術会議の医療のイノベーション検討委員会が「信頼に支えられた医療の実現」という要望のなかで、「専門医制度を根本的に見直し、新しい制度を確立するために、『専門医制度認証委員会』(仮称)の設置を速やかに実現し、10 年以内に新しい専門医制度の体制整備を完了すること。」と提言しました。
 
 社団法人 日本専門医制評価・認定機構に加盟している71の学会の専門医制度を比較しても、専門医認定基準においてはバラツキが大きくあります。特に、論文提出や一定年月の勤務実績の提出のみで専門医認定を行う学会もあり、全てではないとしても、認定自体が形骸化している専門医も存在します。
 
 既存の各学会による専門医の認定制度では、各専門医の技術レベルの差異が大きく、実技試験や実力を担保する根拠ある認定基準なしに、専門医を名乗ることができるような現状では、とても「総合医療区域」が目指す世界最先端の医療レベルを実現することはできません。医師の技量の向上を考えれば、エビデンス(経験)に基づいた一定の統一基準もしくは審査機関の設立が必要不可欠です。そしてそれは、各学会ではなく国が主導で行うべきものであると考えます。

 総合医(家庭医)の養成について、現状では、福島県立医科大学、三重大学、福井大学、河北総合病院、亀田ファミリークリニック館山等の一部の大学医学部や医療施設でそれぞれが独自に行っており、家庭医療先進国であるイギリス・カナダ・アメリカ等の養成システムの導入や、各国から指導医を招へいし、即戦力たり得る医師を養成しています。
 
 しかしながら、その数が問題となります。各大学や医療施設で毎年養成される総合医(家庭医)の人数はそれぞれ数人から十数人に留まっています。これは、断じて大学や医療施設の努力不足が原因ではありません。
 
 厚生労働省は2007年5月に開催した医道審議会医道分科会診療科名標榜部会において、総合的診療能力を有する科として「総合科」の提案を行いました。この「総合科」は総合医(家庭医)を小児科医や眼科医のような専門診療科を標榜する専門医として認定する意図を持って行われたものですが、議論を進めていくうちに、具体的にどのような能力が要求されるのか等、そもそも関係者の中でさえ「総合科」の概念が統一されていない現実が明らかとなりました。
 
 総合医(家庭医)を医療制度のなかで十全に活用するためには、全医師数の半数は総合医(家庭医)である必要があるとの指摘もあります。実際にイギリスやカナダではそのようになっています。逆説的にはその程度の医師数が確保できなければ、日本において総合医(家庭医)を制度として根付かせることはできないということです。将来的にこのような人数の総合医(家庭医)を養成するためには、国が主導していくことが必要不可欠です。
 
 その際には前述の大学医学部や医療施設で行われている総合医(家庭医)養成のカリキュラムや、プライマリ・ケアを担う中心的な学会である、日本プライマリ・ケア学会と日本家庭医療学会、日本総合診療学会の合併が検討されており(2010年5月合併)、3学会が関与する標榜可能な家庭医療専門医(仮称)制度へ移行する動きもあるので、これらを大いに参考にして協同すべきであると考えます。
                                              (文責:若狹)
  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2010年12月22日08:49

【連載・第18回】 厚労省の構想に対する具体案の提示

12月19日

 厚生労働省は、病院と診療所の機能分化・連携の促進を重要な医療政策の方針として掲げていますが、本論の構想はこの促進に大きく寄与します。

 病院=入院(療養施設) 専門医・救急医が中心に勤務
 診療所=外来(プライマリ・ケア) 家庭医(総合医)が勤務
 
 上記のような機能分化を行うためには、それぞれの分野を担当する専門医の養成が不可欠ですが、これまで養成カリキュラムや、その認定すら各専門医療学会に丸投げしている状態で、具体的な方針を打ち出せずにいます。そして現実にはいくつかの専門医認定は形骸化しています。
 このような現状の中、本論は、診療科別専門医と総合医(家庭医)の養成についても具体的な方法論を提示するものです。

 繰り返しになりますが、山間部・農村部などの医師不足医療圏を中心に日本各地10か所程度に「総合医療区域」(日本版メディカルシティー)を創設することで、各「総合医療区域」が設立主体となる県及び隣県のプライマリ・ケアをカバーします。下記の図は、筆者がイメージする「総合医療区域」の大まかな創設場所の位置を示しています。
 これにより、日本から医師不足地域を一掃し、医師・病院(診療科)の偏在による、医療サービスの提供における格差を是正することでき、国民は質の高い医療の恩恵に与ることが可能となります。それはまた、地域医療の質的・量的向上に資するだけでではなく、日本全体の生活の質の向上につながります。


 
 また、患者にとっても魅力ある「総合医療区域」づくりとして、患者やその家族ともども、専門診療科のある「総合医療区域」に住居を移すというケースを想定したインフラの整備を行う必要があります。
 具体的には、新しい住居であったり仕事であったりを斡旋・紹介するシステムの構築が必要である。MSW、所管のハローワーク、役所等との連携を基盤に医療関係者のみならず、患者やその家族も含めた全ての住民が定住都市としての恩恵を享受し、「総合医療区域」において都市部と遜色のない生活が送れるよう設計します。

 医師偏在の解消のためには、医師が生活基盤をその土地に移しても良いと思えるような住居としての魅力、すなわち定住都市として十分な機能を備えていることが必須ですが、そのためにはある程度の社会基盤(権限・処理能力)を要します。
 その点、先述のように、特区の提案主体に2~3府県が合同してあたることでその問題を解決することができ、かつ「総合医療区域」は提案主体となる県及び隣県に跨る地域のプライマリ・ケアをカバーすることから、この範囲を医療圏として保険者を統合し、医療保険制度においてのスケールメリットを出すようなことも可能となります。
                                               (文責:若狹)
  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2010年12月19日12:58

【連載・第17回】 医師を自律的に集める魅力

12月15日

 患者を外部顧客、医師を内部顧客と考える千葉県鴨川市の亀田総合病院の理念を参考に、両者にとって魅力ある「総合医療区域」を構築します。「マグネットホスピタル」という言葉がありますが、もともとは、アメリカで看護師を引き付ける魅力(看護師・看護管理者の関与、強力な看護リーダーシップ、他の病院にひけをとらない給与・福利厚生)を持った病院をさす言葉で、日本では医師に対して魅力ある病院という意味で使われています。  

 本論では、この言葉を、医療関係者(医師・看護師等)だけではなく患者も含めて考え、双方に魅力ある医療施設を「総合医療区域」の中核として創設することを提言します。

 そのうえで、医師の望む医療施設(勤務先)を考えた場合、医師の希望は大別すると2つの環境の充実に集約されます。すなわち労働環境と生活環境の充実です。生活環境については、第13回の連載で記載した通りです。労働環境については、以下の2点が重要であり、これらの点をカバーすることが医師を集約するためのインセンティブになると考えます。

1.専門医・認定医の資格が取得(キャリアアップ)できる
 「総合医療区域」においては、分野別専門医と、総合医(家庭医)の養成カリキュラムを設置することで、この要望に応えます。

2.勤務医の労働条件(時間・報酬)
 「総合医療区域」には専門診療分野を持つ専門医やその資格取得希望者及び、総合医(家庭医)資格の取得希望者を中心に多くの医師が集まることが想定されます。医師が集まれば、勤務時間のシェアリングが可能となり、一人当たりの勤務時間は短縮されます。また、「総合医療区域」は経済的にも地域の自立を促進しますので、勤務者の報酬という点でも問題をクリアできます。

 労働条件の整備という意味では、モンスターペイシェント・訴訟リスク等への対策も必要です。「総合医療区域」ではまず、訴訟や医療関係者及び患者の問題行動等が起きないようにインフォームドコンセントを徹底し、医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)を確保する等の方策と、万が一、訴訟(民事)が起きた場合には、故意・重過失の事案を除いて、法的には「総合医療区域」が被告となり、医療訴訟専門の弁護士を常勤させる等を検討して、医師の精神的負担・訴訟リスクを減らすことを考えています。
 
 これらを実現することが、医師を自律的に集約するためのインセンティブになると考えます。

 患者の望む医療体制としては、地方における医療格差の是正・医療アクセスの向上が重要だと考えます。この点、総合医(家庭医)の養成カリキュラムを日本各地に設置するすべての「総合医療区域」に設置することで、地域のプライマリ・ケアを担う医師の養成・派遣が容易になります。
 同時に高度な治療を必要とする専門分野の医療においても、どこの区域に行けば最高の治療が受けられるのかが明確になり、いわゆる「名医」を求めて、何度も転院を繰り返すような必要はなくなります。
                                              (文責:若狹)

  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2010年12月15日16:54

【連載・第16回】 地域経済の活性化・国際協力への貢献

12月12日

〔副次的効果1.地域経済の活性化〕
 各地の「総合医療区域」では特定の医療分野(その区域が専門とする研究・臨床分野)においては、世界的にも最先端の医療を受けることができ(本構想における研究・臨床の目指すレベル)、日本全国・世界中から患者・医療関係者が集まると考えられます。

 これにより、医療従事者、患者・患者家族、企業労働者、学生等、これまでより人が集まることで、消費活動が活発になります。特定の専門医療分野の医療レベルの向上だけでなく、「総合医療区域」近隣の経済効果をも見込むことができます。
 
 さらに製薬会社、医療機器開発会社、介護施設運営法人等の医療周辺分野をも集約します。営利企業には、研究の推進、顧客の斡旋等のメリットがあり、それらの企業が営業をするための様々な経済活動により地域経済の活性化が促され、具体的には法人税収入と各種雇用により利益を確保することができると期待します。

 また「総合医療区域」には市街規模の土地確保が必要であり、療養施設も建設するので、都市部よりもむしろ地方の農村・山間部など、自然が残り地価の安い地域に創設することになります。
 一見すると不便であるように思えますが、全国各地に点在する既存のインフラである地方空港・幹線道路等(下記、図参照)や、すでに網の目のように張り巡らされた国道等のインフラを活用すれば、創設地域にもよりますが、地方の主要都市や空港等から、不具合が生じるほどの時間が掛かることはなく、十分運営可能であると思われます。そして、不採算のものが多い各地のインフラの施設利用による経済効果も見込むことができるのです。
 
 さらに「総合医療区域」のインフラ整備は基本的に公共事業として行うので、その便益は「総合医療区域」を擁する地方にもたらされます。必要な施設の建築や人材の雇用を通して、地域経済の活性化に寄与すると考えます。この点、公共事業では恒久・持続的な地方活性化はできないとの考えもありますが、国の費用で地方が将来、経済的に自立するためのインフラ整備を行うことになるので、これまでの公共事業のように「作って終わり」のものとは一線を画します。

 以上のように「総合医療区域」の創設は、地域の経済を活性化し「総合医療区域」を擁する地方に「人・物・金」を回すことで、将来的な経済的自立を確立するものです。それは、財政的・物理的に自らの地域の実情に合わせた医療を実現することが可能となることを意味し、地域住民の医療の質ひいては生活の質の向上に繋がると考えます。

〔副次的効果2.国際協力への貢献〕
 「総合医療区域」近隣の医学部を持つ大学・医療専門学校等と協力し、独自の奨学金を創設する等を行い「総合医療区域」の未来を担う医療関係者を育成し、地域医療の将来的な安定を図ります。
 また特区制度を活用し、留学生や海外の医師を積極的に受け入れ、人材育成を通して世界の医療人材供給ハブを目指して、医療レベルの向上と同時に人的協力として、「総合医療区域」から災害地・紛争地に医師団・病院船等を派遣するなどの国際医療協力を行います。

                                                 (文責:若狹)
全国空港配置図

出所:国土交通省 航空局ホームページ より

高規格幹線道路(主要高速道路)網図

出所:全国高速道路建設協議会ホームページ より  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2010年12月12日11:29

【連載・第15回】 期待される効果(医療格差の是正)

12月8日

 「総合医療区域」の創設により、医療格差の是正つまり、「医師不足問題」の根絶という主効果と、地域経済の活性化(人・物・金を地方へ)、及び国際協力への貢献(人材育成を通して世界の医療人材供給ハブへ)という二つの副次的効果を創出することが期待されます。
 特定地域における様々な規制緩和を可能とし、必要であれば資金調達等も容易に行える「特区・地域再生」制度を利用することで、現行法の改正なく迅速に医療格差の是正を図ります。

〔主効果.医療格差の是正〕
 「総合医療区域」の機能のうち1〜4までは、医師を都市部以外の地域に自律的に集約するためのインセンティブとなり得るものです。専門の診療科に特化した技術を磨きたいと願う医師、総合的な診療能力を得たいと願う医師、そして研究医を志す医師、それぞれが思い描くキャリアプランを実現するために最適な環境を提供することで、強制力を伴わなくとも、医師達が自身の意思で都市部以外の地域へ移動してもらうことが可能であると考えます。

 山間部・農村部等の医師不足医療圏のなかにあっても、都市部と遜色のない生活環境を提供し、研究・臨床、教育の中核となりえる医師・患者双方にとって、その施設で勤務したいまたは、治療を受けたいと思われるような魅力ある医療施設を創設します。これにより、医師を自律的に地方へ呼び寄せることができ、地域医療の質的・量的向上を促します。
 より直接的にいうと「総合医療区域」が対象地域とする、提案主体となる府県及び隣県の医師の分布における地域格差の是正に貢献することが期待されます。

 自律的に集約するという点については、同じ場所で同じ労働を課せられたと仮定したとして、強制的に配置された場合と自らの選択により就労する場合とでは、労働意欲に顕著な差が表れるであろうことは想像に難くありません。これは、医師のみならずすべての職種・人について同様だと思います。これまでは医局制度により、地方特に都市部と比べて生活インフラが著しく制限される地域に勤務するケースでは、医師の配置について強制力が強く働いてきました。
 先述しましたが、医局が医師派遣機能を保持できなくなっている現状においては、このような地域への医師の配置は切実な問題となっています。これに対して何らかの強制力を新たに構築して医師を配置する方法も確かに方法論としては考えられます。

 しかしながら、配置される医師の労働意欲ひいてはその地域の医療の質という点を考慮すれば、強制力というそれ一点のみによる医師の配置は医師個人のみならず、その地域の住民にとっても決して良い効果を生み出すものではありません。そうであるならば、何らかのインセンティブもしくは目的意識を与えたうえでの配置を行うことができれば、医師及び地域住民双方にとってよりよい効果を生み出せると考えました。

 本論ではこの点について、総合医(家庭医)養成の課程で、2004年以前、大学病院の医局が保持した「医師派遣機能」を「総合医療区域」が掌握し、地方・へき地の医療施設にも十分なマンパワーを補充する目的で医師を派遣する際に、専門医資格取得やそれに伴う収入のベースアップという将来的なインセンティブと目的意識を付与することを検討しています。
 具体的な方法論については、次回以降の連載で後述しますが、これにより初期医療の面において医師の偏在による地域間の医療格差の是正が期待できます。

                                            (文責:若狹)
  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2010年12月08日13:17

【連載・第14回】 「総合医療区域」のイメージとコンセプト 

12月5日

 「総合医療区域」のイメージを説明するために、北陸地方の福井県、石川県、富山県の3県が主体となり「北陸小児医療区域」を創設したと仮定します。
 
 この「北陸小児医療区域」は、地域医療の中核施設として、三県とその隣県のプライマリ・ケアをカバーします。「小児医療」の専門診療分野においては、臨床・研究ともに日本で最高の医療を提供することが特色です。
 そして小児科専門医の養成と総合医(家庭医)の養成を行い、魅力ある都市計画と医療周辺分野の集約により活性化された地域経済は、「北陸小児医療区域」を擁する北陸地方に医療だけではなく、経済の面においても恩恵をもたらすことが期待できます。
 
 なぜ5つの機能を必要とするのか、それは、医療資源の適切配置と財源確保のためです。1~4の機能は医療資源の適切配置のために、5はその財源確保のために設定するものです。

 まず医療資源の適切配置について、そのコンセプトは「初期医療(プライマリ・ケア)はシビルミニマム的に、高度医療は集中により質を高める」ということです。
 医療施設を受診する患者の約8割をカバーする初期医療を担う診療所・小規模な病院を、国・自治体が保障する最低限度の生活水準として一定程度の人口に比して配置します。一方、残り2割の難手術、長期療養等を要する高度医療については、診療科別・分野別に全国で1か所に集約し、研究・臨床の学術的・人的質の向上を図ります。
 このコンセプトを実現するための、1.専門診療分野とその専門医養成カリキュラム であり、2.総合医(家庭医)の養成カリキュラム です。そしてそれらを学術的分野で支えるインフラが、3.臨床だけではなく研究までも一括して行える中核となる医療施設 であり、人的に支えるインフラが、4.職住一体もしくは職住接近をコンセプトに社会・生活インフラが整備された定住都市としての機能 です。

 次に医療資源の財源確保について、そのコンセプトは「人・物・金を地方へ」です。地方自治体が国からの交付金のみで地域医療の質的向上を実現することは困難です。そうであるならば、地方が独自に財源を確保する必要があり、その手段として専門診療分野に関係する医療周辺分野の営利企業を召致し、営業として獲得した利潤を地方へ還元してもらうことで財源を賄うことが必要です。
 方法論や予想される効果は次回以降の連載のなかで〔副次的効果1.地域経済の活性化〕という項目で記載致します。
                                               (文責:若狹)
  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2010年12月05日16:36

【連載・第13回】 試案 「総合医療区域」の概略

12月1日

 以下5つの機能をもつ市街規模の大規模医療施設群「総合医療区域」(日本版メディカルシティー)を、近隣の2~3府県が合同で「特区」制度を活用し、地方に10カ所程度創設します。将来的な道州制の施行もにらみ、各道州に一つというプランも視野に入れています。

 「総合医療区域」5つの各機能
1.専門医療分野(例:移植医療、小児科、産科等)と、その専門医養成カリキュラム
2.総合医(家庭医)養成カリキュラム
3.研究だけではなく臨床までを一括して行える中核となる医療施設
4.職住一体もしくは職住接近をコンセプトに社会・生活インフラが整備された定住都市
5.介護福祉施設、創薬・医療機器開発研究等の医療周辺産業を集約

1.専門医療分野(例:移植医療、小児科、産科等)と、その専門医養成カリキュラム
 特定の診療科に特化して、特区制度の特徴である規制緩和を最大限活用することで、これまでは不可能及び困難であった研究・臨床(未認可の新薬使用、移植、新手法の手術等)を積極的に行います。また国内外の物的・人的資源を集約することで限定医療分野においては世界最先端の研究・臨床を行い、その診療科の専門医を養成するカリキュラム(臨床・実技試験重視)を併設します。

2.総合医(家庭医)養成カリキュラム
 総合医(家庭医)とは、対象とする人の年齢、性を限らず、日常生活上罹患者の多い病気、症状、訴えを主な対象とし、あらゆる健康問題に対処する専門医です。いわゆるプライマリ・ケア(初期医療・一次医療)を担うことを期待される医師といえます。
 イギリスではGeneral Practitioner(以下、GP)とよばれ、まずGPを受診してのち、必要があれば専門医を受診するというシステムが構築されています。病院・診療所に訪れる8~9割の患者が、優秀な総合医(家庭医)がいれば対処可能とされていることから、「総合医療区域」においては、この日本版GPともいえる総合医(家庭医)を養成します。

3.臨床だけではなく研究までも一括して行える中核となる医療施設
 地域医療支援病院レベルの機能として、病床数が200床以上、他の医療機関からの紹介比率が80%以上、他の医療機関に対して高額な医療機器や病床を提供し共同利用すること、地域の医療従事者の技術向上のため生涯教育等の研修を実施できること。
 そして、24時間体制の救急医療を提供すること、専門医療分野において最先端の臨床を行うための研究設備を兼ね備え、近年、減少する臨床論文にも対応できる医療施設を中核として整備します。

4.職住一体もしくは職住接近をコンセプトに社会・生活インフラが整備された定住都市
 2タイプの「総合医療区域」(地域の実情に合わせて選択)を想定します。
 都市型(職住一体)タイプ
 医療関連施設以外にも定住都市としての社会・生活インフラ機能も揃えます。区域内に勤務する医療従事者やその家族が快適に暮らせるようなインフラを整備する。一例としては、専用のマンション、保育所・介護施設の設置は当然として、各施設には医師と看護師を配備し、子育て中の女性医師等も24時間安心して働ける体制を確保することです。
 また医療関係者や入院患者の家族等が、「総合医療区域」に移住もしくは長期滞在しても良いと思われるような生活環境を整備する目的で、日常生活の充実(通勤の利便性、娯楽施設、子供の教育環境)も図ります。
 病院型(職住近郊)タイプ
 医療関連施設以外は、近隣都市の生活インフラに依存する形で、「総合医療区域」へのアクセスが重要となるので、通勤の利便性を確保します。
 
5.介護福祉施設、創薬・医療機器開発研究等の周辺産業を集約
 医療と介護は社会的入院の問題のみならず密接な関係にあります。入院が必要な高齢者をどのように療養させるのかを含めて、医療施設に介護福祉施設を併設もしくは隣接させることは患者とその家族にとって有益です。
 また医薬品の研究開発は直接医療の質に関係するものであり、その便益は医療分野だけではなく、経済的にも大きい。これは、医療機器の開発についても同様であり、これらの医療周辺分野の施設を集約することで、得られる効用を最大限引き出すことを目的とします。
 そして、これらの産業があげた収益の一部が、「総合医療区域」内の医療施設における高度な医療の提供や研究を、財政的に側面から支援することが期待されます。

                                                (文責:若狹)

  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2010年12月01日14:21

【連載・第12回】 「特区・地域再生」制度の適用

11月28日

 今後の政府の医療政策としては、「スーパー特区」の推進・運用による先端の医療・医薬品・医療機器等を国内外に提供することで、経済的な利益を上げること、社会保障としては、都道府県を中心にした新しい医師派遣機能の構築等を行い、医師不足の解決を図る方針であると思われます。

 総務省行政評価局は、2004年から年2回、特区の利用状況の調査を行ってきましたが、2006年の12月を最後に以来行われていません。特区制度の開始から7年余り、関係省庁や地方自治体の制度的な疲労もあると思われます。
 そして、これは2009年の2月に筆者の知人である自由民主党衆議院議員(当時)から伺った話ですが、「現在の特区申請は本当に小粒で、はたして特区でなければ実現不可能なものはほとんどない、数も少ないし、このままでは、この制度自体が立ち消えする」、との事でした。
 このような現状も踏まえて、「スーパー特区」が創設されたのだと思います。しかしながら、運営する「健康研究推進会議」は、内閣府・文部科学省・厚生労働者・経済産業省が連携した組織ですが、調整権限しか持たず、独自の予算も付いていないあいまいな組織であり、対策の迅速性と今後の発展性は乏しいと言わざるを得ません。

 また本論では、ただ単に医療分野における既存の構想にとどまりません。それは、地方経済の活性化や、国際協力の推進という国家戦略をも含むものです。このようなレベルでの「特区・地域再生」制度の利用はいまだ例がありませんが、次回以降で記述する「試案」の実現は制度上・法的にも問題はないと考えています。
 都道府県は医療提供体制の確保に関する計画(医療計画)を定める必要がありますが、医療法(第三十条の四 第九項)には複数の都道府県にまたがる医療計画について記載されています。「市町村」から「スーパー特区(テーマ重視・複数拠点の研究者をネットワークで結んだ複合体)」の実施で拡大された特区の構成単位・提案主体を、さらに拡大し、2~3の府県でひとつの「医療特区」を創設・運営することは、現行法上でも可能だと考えています。
                                                 (文責:若狹)

  

Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2010年11月28日13:06