離島医療の理想像 -小笠原村診療所-

9月12日
当会の若狹が、東京都小笠原村の小笠原村診療所を視察して参りましたので、ご報告をさせて頂きます。
離島医療の理想像 -小笠原村診療所-
 9月12日に小笠原村診療所の担当者にお話しを伺い、診療所施設を見学させて頂きました。今回はホームページ等で調べれば分かることではなく、直接現地に赴かなければ知ることができなかったことを中心にご報告致します。

 今回の視察で、小笠原村診療所はある意味で、離島医療の理想像を体現しているのではないかと感じました。
 
 ヒアリングのなかで、「国や医療行政に望む、援助や政策にはどんなものがありますか?」という私の質問に対して、担当者は「特にありません」と回答されました。
 色々とお話しを伺うなかで、この回答の真意は「ないものねだりをするのではなく、現状と将来を見据えて出来ることを粛々と実行していく」それが自分たちの仕事であるという自負による返答であることが伝わってきたからです。島内出産の方針がそのことを明確に表しています。

 現在、小笠原村では、島内出産ができません。これは産科医の在不在が問題の本質にあるのではなく、出産というシステム(具体的には出産前後に専門的なケアがある程度の期間必要とされる等)を考えたとき、離島という小笠原村の現実を鑑みれば、必要十分なケアを継続的に行うことは難しいという判断から、今後も実施する予定は無いとの回答でした。対応策としては、島民の島外出産を支援する制度を各種整備しています。

 人工透析についても同様です。現状、小笠原村では人工透析が必要な疾患を患った時点で、島外への移住が必要となります。人工透析についても今後、島内で実施の予定はありません。急変時の対応の遅れが致命的な疾患の対応は、基本的に行わない(行えないのではない)というのが、その理由です。島外の病院への患者収容までの平均所要時間が、約9時間30分という現実を見据えての対応であることが分かります。

 そしてこれは、特に重要で忘れてはならないことですが、上記のような環境であることを小笠原村の島民は、きちんと受け入れたうえで暮らして居るということです。
 今や地域医療は離島やへき地に限らず、住民の理解と協力がなければ立ちゆかない状態です。医療機関と住民の相互努力によって限られた医療資源を有効活用する、そのひとつの理想像が小笠原村と小笠原村診療所にはあるように思います。


 補足
・診療所の設備について
 22年5月に旧施設の老朽化に伴い、介護施設と一体化した現診療所を整備、開設した。少ない人員でケアを行っているので、診療所スタッフの動線が非常に考慮された作りになっている。各部屋の裏口が一本の道で繋がっており、極力ドアに手を触れずに迅速に必要な部屋に移動できる様に配慮されている。
 また台風が10回くれば10回停電するような環境なので、自己発電設備は充実している。診療所のフル機能を使用したとしても丸3日は賄うことが可能とのこと。

・基礎データ
 スタッフ
 医科 医師3名(内、都派遣医師1名)、看護師10名、助産師1名、薬剤師1名、Ⅹ線技師1名、理学療法士1名、栄養士1名、調理師2名
 歯科 医師、技工士、衛生士 各1名
 事務 課長以下4名

 診療実績(平成22年度)
 医科 年間外来患者数 8,374人 1日平均患者数 34.5人(外来243日)年間入院患者数 37人 年間入院実日数 73日
 歯科 年間外来患者数 1,050人 1日平均患者数 4.3人(外来243日)

 緊急患者搬送実績(平成22年度)
 年間搬送数 21件・23人 病院収容までの平均所要時間 9時間16分

 医療機器(主なもの)
 医科 CT・X線装置、ポータブルレントゲン、超音波診断装置、人工呼吸器、除細動装置、心電計、血算・生化学検査器、血液ガス分析装置(小型)他
 歯科 診療ユニット、歯科Ⅹ線装置、パノラマⅩ線装置、歯科技工器材 他
離島医療の理想像 -小笠原村診療所-
                                                    (文責:若狹)

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Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2011年09月19日23:04

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