【要約・第5回】 「連載21~最終回分」

Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~

2011年01月30日 09:44

1月30日

 医師の養成と増員について、既存の医学部5年生以上に、全国統一試験を課して、合格者には仮免許を支給し、現行の臨床研修制度レベルの研修を在学中に履修させることを提案します。医師の増員については、両極の議論がありますが、医師が増えることで医療の質が低下するという論旨は、こと医療分野においては当てはまらないと考えています。

 医師過剰 → 競争原理が働く=買い手(患者)市場になる → 専門医・総合医の資格(能力)を持た ない医師を患者が選ばない → 医師が資格取得のために技術向上に励む → 医療業界全体の質の向上 → 患者・国にとって有益

 一連の改革は医師個々人にとっては、経済的な面及び生活面ではこれまでより格段に改善されます。しかしながら、こと医療に関する知識や技術の習得については、これまでより積極的な姿勢が求められることになります。それは全ての医師が、診療科別専門医もしくは総合医(家庭医)の資格と能力を持つことを求められることになるからです。
 それにより恩恵をうけるのは、患者であり、ひいて国そのものです。知識や技術を身につけることは、言葉でいうほど簡単なことでないことは医師ならぬ身でも容易に想像がつきます。しかし、このような努力の求められかたは「医は仁術」を標榜する医療関係者の本懐ではないでしょうか。

 「総合医療区域」の創設にかかる費用については、本論では既存の類似施設「神戸医療産業都市構想」を例に、「総合医療区域」の創設に係る費用を仮定する事とします。中核施設の整備等に費やした投資額は、98年から09年度予算までの累計で、神戸市が約249億円、国や独立行政法人などが約1,037億円の合計約1,286億円。単純計算で、年間で約100億円程度を設備投資等の費用として、自治体経費もしくは国からの交付金・補助金等で賄っていた計算になります。
 「総合医療区域」の創設にかかる費用の財源については、国土交通省所管の公共事業費「住宅都市整備環境事業費」などの活用です。
 「住宅都市整備環境事業費」は、総額1兆6,100億円(2008年度)でその内訳は、地方の自主性・裁量性を尊重した地域住宅交付金により地域における多様な需要に対応した公的賃貸住宅の整備等を行う「住宅対策」6,548億円。地方の自主性・裁量性を尊重したまちづくり交付金により都市環境を整備する「都市環境整備事業」に9,553億円を支出しています。 

 「総合医療区域」においては、従来の規制の枠にとらわれない医療サービスに関する情報公開や国際的な人材の活用、診療科別専門医及び総合医(家庭医)の研修制度の確立、医療従事者の職場及び居住環境の整備、医療施設と医療関連産業との共同事業などが可能となります。
 このような「総合医療区域」を地方に10カ所程度配置し、それぞれが高度な医療サービスを提供する医療施設や医師の研修制度をもち、充実した生活及び職場環境を提供することで、医師がそれぞれの適性やキャリアプランを勘案して「総合医療区域」に集まってくることが期待されます。
 そして、各「総合医療区域」が医師の派遣機能を持ち、提案主体となる道府県及び隣県のプライマリ・ケアを担うことで、医師の偏在による医療格差を是正することが可能になるのではないかと考えました。2004年に新臨床医研修制度が導入されたことによって弱体化してしまった大学病院医局の医師派遣機能を、「総合医療区域」が再構築するということです。
 また、「総合医療区域」では、民間の医療関連企業との共同事業を通して地域経済の活性化を図りつつ、さらには、病院は入院、診療所は外来といった病院と診療所の機能分化と連携についても、それを実現するための具体策を本論は提示するものです。

 本論はもともと「生命の洲・日本」構想 ―いのちのしま・にっぽん― という政策の実現フェイズを時系列順に3分割した場合の最初の段階を抜き出したものです。この政策は、安全保障と社会保障という国家政策における基盤ともいうべき二つの保障を医療政策という一つの理念で統合し、日本が「世界平和」の実現に向けて具体策を示すことを最終目的とするものです。
 すなわち、本論で記載した「総合医療区域」の創設により、国内の医療格差の是正をはじめ、医療立国としての基礎を確立する。
 これをフェイズ1として、次に、国内のみならず、海外からも多くの患者・医療関係者が、治療や医学研究のために日本を訪れるという状態を作り出すことを目的とした、各種のインフラ及び法整備とその実現をフェイズ2とする。
 さらに最終段階フェイズ3として、国内での法的認識とは裏腹に諸外国からみれば軍事抑止力そのものたる自衛隊を国内警察力に転嫁し、名実ともに対外戦力(軍事力)の不保持を実現する。

 これは、国内に様々な国の患者・医療関係者が存在し、かつ世界の最先端医療を国全体で実現し、その「医力」により国際貢献をなし得る日本が、「医療抑止力」をもって国家安全保障を成り立たせ、世界に先駆け実質的な軍事力を放棄することで、軍縮と「世界相互依存」の状態を作り出し、世界平和への具体的一歩を世界に向けて示すことに他なりません。

 50年先、100年先の日本が国家として目指す理想を提示し、その理想をただ夢想するのではなく、現実のものとするために、今後とも更なる研究を進め、政策の実現可能性を高めていきたいと考えています。
                                               了(文責:若狹)

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