【連載・第10回】 特区の必要性について

11月21日

 医療は医師法・医療法により、通常の営利業界(会社)であれば当然許されることであっても、公共性を保持するという概念から多くの規制が存在します。それは、場合によっては患者だけではなく、日本の医療全体の損失となり得るものもあると考えます。

 例として、医療法では患者が医療機関の広告に過剰に影響を受ける恐れがあるとして、広告の許されている範囲が非常に限定されていることが挙げられます。
 特に治療実績は、施術数など限定的です。がんであれば「5年生存率」など、その医療機関を患者側が選別できるような真に有益な情報は、現行制度上、その意思があっても医師・医療機関側にはホームページ上等で公開できません。

 また医師法では、外国人の医師が日本で診療行為を行うためには、日本の医師免許の取得が原則ですが、これは非常にハードルが高いのです。そこで実際上は、厚生労働大臣の指定する病院において臨床修練指導医という資格を持つ日本人医師の実地指導監督の下、診療行為を行うことが認められていますが、報酬を受け取ることは認められていません。
 
 同様に「医師免許二国間協定制度」を、イギリス、フランス、シンガポール、アメリカ(事実上、不適用状態)と締結していますが、許可枠は数人に過ぎず、しかも外国人の診療のみを許可しているというケースもあり、実効性に欠けた制度となっています。
 
 このように日本人医師より優れた技術・知識を持つ「名医」を海外から招へいし、国内の患者を診てもらうには、現行制度では不具合が多いのです。また、医療面だけではなく滞在・就労ビザの問題等も存在します。より質の高い医療を実践するために必要だと考えられる施策の実行に、現行法の改正が伴うことになれば、数年というレベルで時間を要します。

 一例として挙げた医師法・医療法関連の問題について、最初は地域限定的にですが迅速に改善できる可能性があります。そして、経済的側面からも特区制度の活用は重要です。国の一般会計(2008年度)の歳出総額約83兆円のうち、医療費は8.5兆円と10%を占めています。この額の多少についての議論は本旨ではないので省きますが、医療において、財源ひいては経済的な問題は切っても切れないものであると思います。
 
 そのうえで、現状よりも医療サービスの向上を図るのであれば、一部の例外的な事情を除けば、財源となる資金の確保が必要となります。問題は、どのような方法でその資金をねん出するかです。特に地方自治体においては国からの交付金以外に、この資金を確保することは切実な問題です。
 
 その方法論と期待される効果については、次回以降の連載で記述しますが、地方自治体が国からの交付金以外に、医療サービスの向上に回す資金を確保するために特区制度は有用です。特区制度創設のそもそもの目的は「経済の活性化」にあるからです。地方自治体が国からの交付金以外に、独自で資金を確保することができれば、それは地方における医療サービスの向上につながります。
                                               (文責:若狹)
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Posted by Freedom to Patients ~患者視点の医療政策を考える会~. at 2010年11月21日10:07

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